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bluewoody のミニエッセー・シリーズ

〜英語は旅路の彩り〜
 
 「a religious order」ってなに?
        ―心に焼きついた言葉たち
 

 一度、聞いただけなのに、ほとんど半永久的に、記憶に残ってしまう言葉があるものだ。

 「A religious order」。僕の場合、「忘れられない」言葉の筆頭がこれだ。語義、分かるだろうか。これは、「修道会」という意味。
キリスト教圏の人々、日本人でもこの方面に素養のある向きにとっては、ごく常識的な言葉かもしれない。だが、これを初めて聞いたとき、僕にはまったく分からなかった。

 「宗教的な秩序」「宗教的な命令」「ありがたい身分」…。

 直訳してみても、どれもしっくりこなかったことを思い出す。

 この言葉、学生時代、「宗教学」(一般教養科目)の講義で、老教授の口から出た。昼下がりの大教室で、学生の何割かが眠気に襲われはじめたと見て取ったのだろう。教授は、それまで話していた話題を、急に中断した。

 「ところで諸君、 a religious order って知ってるかな」。教授は、流れるように見事な筆記体で、黒板にその綴りを移していく。

 「ん?」。教授がにらんだとおり、半覚醒状態で木製の長椅子にかけていた僕は、教授の美しい筆跡を見て、目が覚めはじめた。

 religious も order も 、知っている単語である。だが、どうにも意味が分からない。しばらく考えさせてから、教授が正解を教えた。「修道会」。なるほど。納得した。

 優しい言葉二つがくっつくと、とんでもない意味になるというわけだ。もっとも、ペアにならなくても、orderだけでも「修道会」という意味はあるが。

 ここでショックだったのは、それまで知っていると思い込んでいた平凡な単語に、まるでダークホースみたいな意味が潜んでいるということだ。これだから、言葉は恐ろしいー。

 世の名訳者たちが、たまには誤訳の地雷を踏んでしまう悲劇の楽屋裏を垣間見てしまったような気がしたものだ。

 こういうわけで、この a religious order、あの講義から30年以上経った今でも、しっかりと、僕のアタマに焼きついているのである。

 こんな経験は、あなたにも一つや二つは、あるのではないだろうか。新鮮な出会いばかりなら、英語の語彙を増やすのに苦労しないだろうなーと、夢想することもある。

 が、よく考えると、こんな特異な経験が同じように連続したとすると、どれも似たようなことだから、印象に残る語彙がなくなってしまうのではないか。

 まったく、我ながらアホなことを想像してしまう。いずれにせよ、英語を母国語にしていない我々にとって、その語義をきっちりとつかむのは至難の技と思っていてちょうどいいのだろう。

 もっとも、母国語の日本語だって、必用十分に操るための教育を、無念にも受けていないのだが。

(了)


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