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bluewoody のミニエッセー・シリーズ

〜英語は旅路の彩り〜
 

  
暗記はやっぱり語術の基本

        ―わが暗記づけの日々

「こく」のある表現 
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 「あそこの大きなビルディングを見てごらん」。

このせりふを英語でいうとしたら、どうなるだろうか。おそらく、普通に


 Look at that big building. 

となるだろう。そして、これは間違ってはいない。意味も通じる。では、これはどうだろう。

 Look at that big building over there.

 こちらの方が、文章として「こく」があるとはいえないだろうか。

over there を付けたしただけだが、いっそう英語らしくなっている。

 では、このover there をとっさに口にできる英語力とはなにか。じつに、この表現がアタマにプリントされているということなのである。では、プリントするにはどうするか。現実の場面で(英語圏の国々で)使って覚える場合を別にすれば、会話本などを参照して暗記するしかない。その方法は、「反復練習」あるのみである。
 

「会話」を演じて
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 僕が高校時代に所属した英語クラブは、僕たち新入部員に、毎週、短い会話の暗記を課したものだ。家で暗記して、次のクラブ活動の時間に、2人1組でその会話を演じるのである。先輩が見ており、行き詰まると教えてくれた。

しかし、僕は皆の前でいい格好をしたいばかりに、懸命に暗記した。往復2時間の通学電車の中で。 

 これが不思議なのだが、本気になって、のどが痛くなるほど何回も繰り返すと、暗記ができてしまうのである。若いアタマはじつにやわらかいのだ。

 この練習のおかげで、上記のover there のほかにも、会話表現をずいぶんと覚えた。

 暗記といえば、この英語クラブでは、スピーチをつくって、人前で発表する活動もあった。その前段階として、なんと、あのリンカーン大統領の「ゲチスバーグにおける演説」を暗記することにしていたのだ。一般的に「人民の、人民による、人民のための政府」というくだりで名高い、あの演説である。


反復練習が、「可能」を引き出す
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 先輩が、原文をタイプしてくれた。これはかなり難解な単語や表現を含んでいる。

 まず、僕たちは、辞書を引きまくって、なんとか演説の内容を分かろうとした。しかし、個々の単語の意味は分かっても、全体の中での意味合いをとれないものもあった。それはそれで、とにかく前へ進み、一応仕上げた。

 そして暗記にかかる。反復練習。信じられないことだが、ほぼ暗記できた。

 3年程前。英語学校の教室で、スピーチのことが話題になった。僕のアタマに、あのリンカーンの演説が浮かんだ。さわりの一節が、口をついて出た。

 30年の時を経て、プリントされた英語が見事に甦ったのだ。

 暗記の力、恐るべし。
(了)
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